【ANA】〈取材〉沖縄・久米島でレベル4でのドローン配送実証実験を見てきた

ANAホールディングス、久米島町役場、ドローン機体のACSL社、JAおきなわAコープ、Aコープ久米島店がタッグを組んで行われた今回の「レベル4でのドローン配送実証実験」。何故久米島なのだろうかと疑問に思いながらAviation Picks編集長の深澤明は那覇から琉球エアコミューターの便で久米島入りしました。

[そもそもレベル4って?]

「ドローンはこうした平和的に使われるのが一番よね」ですとか余計なことを考えながら、まずはドローンを知らないことには話が進みませぬ、ということでまずはレベル4の確認からしていきましょう。

◻︎レベル4 : 有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行でのドローン運航

つまり、街の上を補助者なしで遠隔飛行させることができるという解釈で良いかと思います。

いままでANAホールディングスはレベル3による実証実験を複数回行ってきています。

◻︎レベル3 : 無人地帯での補助者なし目視外飛行でのドローン運航

大きな違いは人員の数です。レベル3では運航に少なくとも3人以上の人員を要したそうですが、レベル4になると運航者1名で実施が可能となります。レベル3ではオペレーションコストが増大になり、事業性に暗雲がかかっていたようですが、レベル4になり将来への明るい兆しがようやく見えてきたといえます。

低コスト高効率。うまくまとめればこういう言葉ですね。特に今回の久米島のような離島での労働人口不足を補う意味でも、大変意義深いことなのです。

レベル4での運航には国土交通省からの承認が必要です。今回ANAホールディングスは航空局から「第一種型式認証」を取得した無人航空機である回転翼型ドローン「ACSL 式 PF2-CAT3 型」を使用し、国家資格の「一等無人航空機操縦士」資格を保有したANAの社員が運航に関わっていることがポイントです。

[実証実験の様子]

場所は沖縄・久米島です。

今回の実証実験は、久米島町役場近くにあるAコープ久米島店の商品を、1日数便の周遊バスに移動手段が限られている久米島町真謝地区へドローンによる配送を行うというものです。自動車の運転が困難になって運転免許を返納した高齢者は買い物難民になっている現状などを鑑みての実施です。

また、いずれは久米島から東に約100km離れた沖縄本島との間にある離島間でドローン物流を確立すべく、この久米島を拠点としてANAドローンシステムを構築したいという狙いもあるようです。

レベル4では有人地帯の上を飛べるということは街の上を飛ぶことになるわけで、その点では日頃から航空輸送における安全管理や運航管理、整備部門などを航空会社として培ってきた知見を活かした飛行マニュアルを構築できる点で、ANAホールディングスがドローンを実施する意味はとても大きいのです。

最大ペイロードは1kgというのは利用者からすれば少ないですし、まだまだ発展途上です。ただし、レベル4での実証実験を実施したことは大きな一歩でありますし、ANAホールディングス株式会社の執行役員 未来創造室 室長 津田佳明氏は「このレベル4での実証実験でようやく事業化に向けたスタートラインに立てた」と現状の評価を示していました。

△ 2023年4月からANAホールディングスは未来創造室を設立。モビリティ事業創造部 のドローン事業グループが主導している

△ Aコープ久米島店の駐車場に設置されたドローンの離陸地点

△ 実証実験用のお惣菜の特別電話注文によってスタッフが店内から商品をピックアップ

△ ドローン配送用に箱に先ほどの商品を丁寧に入れる

△ 箱の重量も入れて合計1kg未満に

△ ドローンに商品運搬用の箱を装着

△ 離陸したドローンは自動操縦で実証フライトの目的地の旧仲里間切蔵元跡へ向かう

△ 国家資格の「一等無人航空機操縦士」資格を保有したANAの社員が運航に関わる。操縦自体は自動だが常にモニターしている

△ 実証フライトの着陸地点である久米島町真謝地区の旧仲里間切蔵元跡へ飛んできたドローン

△ 着陸地点に商品運搬箱を自動で置き、再び離陸地点のAコープ久米島店へと飛んでゆく

△ 今回の実証実験では注文主の玄関先までボランティアの方の協力を得て運搬を完了させた

△ 届けられた商品を手に喜びを見せる注文主の方

△ 「とにかくレベル4で飛ばせたことが第一歩」と語るANAホールディングス株式会社の執行役員 未来創造室 室長 津田佳明氏(写真左)

[ドローンの可能性と今後]

Aviation Picksでは今後もANAのドローン事業展開に注目していきたいと思っています。

新しいことに挑戦することはとても素敵です。社会的意義と採算性をどのように取っていくのか。この課題に取り組んでおられるANAホールディングスの社員の皆さまのモチベーションはとても高いと感じています。

一方で、普段静かな島の空にドローンが飛び交い「ちょっとうるさいですよね」という本音も聞こえてきました。また、玄関先まで届けてもらう仕組みを今回はボランティアの方の協力があって実現できていましたが、例えドローンの着陸地点が自宅から50メートルだったとしても取りに行くのは大変だという意見も。

スーパーまで行く労力を考えたらそのぐらい、、、ということも正直思わないでもないですが、人にはそれぞれ事情があり、不都合なことも実に多いのが実情だと想像できます。そういった人々の生活に寄り添っていく、街に、人に貢献してゆくというのは様々な声に耳を傾けていき、それこそ持続可能な形を作り上げていくことが必要があります。

現段階では「レベル4で飛ばせた」という実証実験の実施側の達成感と課題感ばかりが目立ちますが、この先社会に貢献していくシステムが形成されていく様は、意義深いものになると確信しています。

空や飛行、機体に関する知見があるANAホールディングスと、街に根づいたプロフェッショナル企業との連携によって、今後持続可能な形が模索されていく可能性も含めて、今後注目すべき分野だと思います。

メディアとしては事実を伝えるだけに徹するべきかもしれませんが、航空機運航で培った知見と経験を人々の生活に違ったアングルから貢献していこうと、事業として着実に取り組まれているANAホールディングスの心意気と姿勢には心から敬意を表します。

今後のANAグループのドローン事業にも大いに注目していきたいと思います。

(取材 写真 文 : 深澤 明)

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