JALグループのスプリング・ジャパンが2024年4月11日から運航を開始する予定のヤマトグループの貨物専用機。そう、垂直尾翼や機体胴体前側面の子猫をくわえたシルエットがかわいいエアバスA321-200 P2F型機ですが、2023年11月20日に成田空港のJAL格納庫でお披露目されましたね。
当日はヤマトグループが招待したと思われる関係者も格納庫に大勢駆けつけて、盛大なお披露目になりました。メディアも多かったです。
ちなみに、このエアバスA321-200 P2F型機というのは、今回日本では初めて導入されました。
「なぜエアバス機を運航していないスプリング・ジャパンが運航を担うのだろう」という直球な疑問点は正直ありますよね。当初の発表通り、ジェットスター・ジャパンが担うなら腑に落ちましたが。
それはそうと、JALグループが描く「物流に新たな価値を提供し、サステナブルな社会を実現する」というビジョンと、物流のプロフェッショナルであるヤマトグループと方向性が一致した、と理解して良いでしょう。
ヤマトグループは「宅急便」でお馴染みの、日本における物流の基礎を築き上げてきた企業といっても過言ではありません。これまでは長距離トラックや鉄道、フェリーや旅客機の床下貨物で輸送を行ってきましたが、新たな輸送手段として貨物専用機を導入するという決断をされたわけです。
△ 格納庫内でお披露目されたヤマトグループの貨物専用機。ヤマト運輸のトラックも並べられた
スペック面に注目してみましょう。最大搭載重量は1機あたり28トンだそうです。これはヤマトグループの10トントラックのおよそ5台〜6台分だとか。
搭載できるコンテナの数は、上部貨物室にAAYコンテナが14個。下部貨物室にはAKHコンテナが10個だそうです。
航続距離は2,300km〜3,000kmだそうで、これは東京から香港や台北へも運航することが可能な距離です。しかしながら、就航当初は国内輸送にのみ使用されるそうです。
導入を予定している貨物専用機が3機で、すべてが稼働した暁には
東京(成田/羽田) – 北九州
東京(成田/羽田) – 札幌(新千歳)
東京(成田) – 沖縄(那覇)
沖縄(那覇)) – 北九州
の路線で、1日あたり合計21便が運航される予定です。東京に関しては、日中は成田、深夜帯に羽田に就航し、時間的効率が図れるようです。
△ 上部貨物室に搭載されるAAYコンテナ。これが最大14個搭載可能
△ 下部貨物室に搭載されるAKHコンテナは最大で10個搭載が可能。グランドハンドリングのスタッフが高さなどを確認していた
△ 上部貨物室の全景(機首側から)。同じ小型機のボーイング737-800型機の貨物専用機に比べると、およそ20%ほど多くの貨物を搭載可能だとか
△ メインのカーゴドアを内側から望む
△ メインカーゴドア付近のローラー部のアップ
△ 格納庫内では多くの招待者やメディアが見守る中、実際にAAYコンテナを搭載するシーンのデモンストレーションが行われた
△ 上部貨物室の最前列に収納された状態のAAYコンテナ。実際には後部からコンテナを搭載してゆくので、ここに配置されるコンテナは最後に搭載されたものとなる
物流を取り巻く環境について触れておきましょう。
「2024年問題」というのがよく言われています。働き方改革の関連法案によって、2024年4月1日から施行される、自動車運転業務の時間外労働上限規制が960時間になることによって、トラックを中心とした輸送力が減少するのでは?ということへの懸念です。
それに加えて労働人口の減少や高齢化による、トラックドライバーの不足の問題。
いわゆる「モーダルシフト」ですね。
トラック中心の輸送手段を、鉄道や船舶に変えてゆく。その一つの手段が、ヤマトグループの場合、航空機が新たに加わるということです。
また、現在も成長を続けているEC市場は今後も成長を続けると仮定すると、輸送貨物の構成要素も変化が訪れることが予想されること。
これらの問題解決の一環として着目したのが、貨物専用機の導入の根拠と言えるでしょう。
ヤマトグループの強みとしては、陸・海・空の3つの選択肢を揃えたという点でしょうか。
「航空機は自然災害にも強い」ということもPRされていました。毎年のように起こる夏の水害や、今後懸念される大地震による交通網遮断のリスク回避として、空路での輸送手段の確保が有利だということもあるようです。
△ ヤマトグループの強みとしては、陸・海・空の3つの選択肢を揃えたという点か
ヤマト運輸のベースから空港までも陸上輸送、貨物上屋内での貨物積み付けをヤマト運輸が行い、上屋内での貨物計量、ランプハンドリング、航空機整備をJALが担当。そして貨物輸送機の運航とオペレーションコントロールとロードコントロールをスプリング・ジャパンがに担う体制です。
「モーダルシフト」にしてはトラックによる輸送量の分母が大きいことが容易に想像でき、そのうちのどの程度のものをこの貨物専用機が担うのか。国内路線だけでどれだけの採算が見込めるのか。客観的に見るとやや複雑に思える運航体制など、興味は尽きません。
2023年11月22日から、運航乗務員の習熟飛行も始まったようなので、成田や北九州、関空などで目にする機会もありそうですね。
新千歳にも就航するのなら、現在建築中の半導体工場との取引も、今後期待できるのでしょうか。
いずれにしても、クロネコのかわいいシルエットでインパクトのある機体ですので、撮影対象としても注目されると思いますが、2024年4月11日の就航以降の稼働内容についても、引き続き注目していきたいと思います。
[取材_写真 文 : 深澤 明]